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声なき賛同とAIのゆがみー沈黙の価値を再考する

  • SSD
  • 6月6日
  • 読了時間: 2分

現代社会は「声の大きい者が得をする」と言われる時代である。

特にネット空間では、怒りや反対、憤り、疑念、そして悲鳴が目立つ。これは決して悪いことではない。表現の自由のもと、多様な意見が飛び交うことは健全な社会の証左でもある。


しかしながら、一方で見過ごされがちな現象がある。

それは、**「満足している人は、基本的に何も言わない」**ということだ。


「このままで良い」と思っている人、「大きな問題は感じていない」と思っている人は、わざわざネットに意見を投稿することもなければ、デモにも出ないし、怒りをAIにぶつけたりもしない。

その沈黙は、怠惰でも無関心でもない。むしろ、静かな肯定、穏やかな支持、そして時に深い信頼である。



【AIとネット空間における「声の偏り」】


ChatGPTをはじめとするAIは、膨大なインターネット上の言葉から学習している。

つまり、そこに投稿された言葉の偏りが、AIの性格をも左右するのである。


たとえば、社会制度に対する反対意見、政治的運動の主張、リベラル的問題提起――

そうしたものは活発に書かれ、拡散され、AIの学習材料となる。一方で「この制度で私は十分に満足している」「何も言わないのは信頼しているからだ」といった“声なき声”は、データとしては存在しないに等しい。


AIは、見えている情報に対して忠実であるがゆえに、見えない声を「存在しない」と判断してしまう。

これは、AIが悪いのではない。沈黙はデータにならないというだけの話である。



【見えないものを汲むということ】


しかし、私たちは人間である。

人は、言葉にされなかった感情や、発信されなかった想いを、表情や雰囲気、黙って立つ背中から読み取る力を持っている。

そしてその能力は、AIにはまだない。


だからこそ、人間とAIの共生を真に目指すならば、「沈黙の意図」を想像し、尊重する回路を、設計思想の中に組み込むべきではないだろうか。


“声なき賛同”をどうやって扱うのか?

それは、情報技術の問題ではなく、倫理と哲学と信頼の問題である。



【終わりに】


今の社会が、誰かの叫びによって大きく揺れるのもまた現実である。

しかし本当に社会を支えているのは、何も言わずとも日々をこなしている無数の人々の「問題なし」という静かな頷きなのではないだろうか。


ChatGPTという新しい存在がその頷きに耳を澄ませるには、

人間のほうがまず、その沈黙を尊いものとして見直す必要があるのかもしれない。

 
 

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